トシオ小父さんとおはぎ。
トシオ小父さんは生涯独身だった。
そのため、香典は要らない(家族がいないので香典返しなどが負担)、となったと聞き、せめても霊前を…と相談したら、母が「トシオくんと言えばおはぎじゃない?」と言い出した。
そうだった。
トシオ小父さんはおはぎが大好きだった。
彼の母親が作るおはぎは、大人の拳大だったそうだ。
実家に住まいながら働いていたあるとき、トシオ小父さんは、職場に母親の作ったおはぎを5〜6個ほど折詰に詰めて持って行った。
周囲の人は、量からして、当然部署全員で食べるものだと思って待っていた。
ところが、おもむろにフタを開けたトシオ小父さんは、1人でムシャムシャとその特大おはぎを食べ始めたのだ。
そして1人で全部食べ切った。
同僚たちはあまりの甘党ぶり&健啖ぶりに、あっけに取られたそうだ。
(…まあ、だから後年糖尿病になったりするのだが…)
そんなわけで、私はトシオ小父さんの霊前におはぎを持って行くことになった。
季節が悪く、どこにも売っていなかったので、当日朝早く、まさかの手作りである(おはぎを作ったのは初めて)。
一瞬、拳大にしてやろうかな、と思ったが、大変すぎるので、結局普通サイズにした。
「作り方がなってない!」とかトシオ小父さんが怒りそうだが、まあ、初おはぎなので、勘弁してください。