バナナを食べすぎた話。
トシオ小父さんは、小学生の頃に大引越しを経験した。
1960年代のことだ。
当時は移動がそんなに楽ではなく(小父さんたち一家も、在来線を乗り継ぎ乗り継ぎ、数日かけて移動したそうだ)、ご近所中が、「今生の別れ」とばかりに駅まで見送りにきた。
そしてこのパターンだと、皆、餞別を持ってくることになる。
時期だからか、それともそれが(比較的)高価だったからか、餞別は揃いも揃ってバナナ一房だった。
皆々様から頂戴したバナナを抱えてトシオ小父さん一家は移動した。
長い移動の中、小学生のトシオ小父さんはおやつをねだった。
父親は「バナナを食おう。いただきものだから」と言った。
バナナが餞別になる時代のこと、めったに食べたことがなかったトシオ小父さんは喜んで食べた。
次におやつをねだると、父親は「バナナが残っとる」と言った。
もうここでオチはわかると思うが、この長い旅の間中、トシオ小父さんはひたすらバナナを食べるハメになった。
当たり前だが、バナナは数日で傷む。
それでも「バナナが残っとる」のひと言で、トシオ小父さんは最初から最後までバナナを食べた。
結果、トシオ小父さんは二度とバナナが食べられなくなった。
後年、会社で同僚からパウンドケーキをお土産で振る舞われ、ひと口食べて、味わう前に反射的に吐き出してしまい、「これ、バナナ入ってない!?」と叫んだら正解だったそうだ。
(ちなみにそのあとトイレ行き)
本人は「俺はあのとき一生分バナナを食った」と言っていたが、残念ながら、バナナアレルギーを発症したのだと思われる。
※余談
トシオ小父さんも「嫌いだ」としか言わず、私も「バナナのアレルギー?ないでしょ」と思っていたが、第二子を産んだ後にバナナアレルギーの存在を知った。
…介護施設に入るなら伝えておかないと…。