トシオ小父さんの語る幼い頃の私。
トシオ小父さんが、初対面の私の知人に、ほぼ必ずした話が、「えすぺろがレコードを聞いた話」である。
「こいつはさ」、とトシオ小父さんは始める。
「3歳くらいで、じいちゃんばあちゃんのところに1人で預けられてさ、寂しかろうと見に行ってみたら、俺を手招きして、童謡のレコード聞かせてくるのよ。
あー、子どもらしい、可愛いなぁと思ってたら、レコードを全曲最後まで聞いた後、『いっきょくめはなになに、にきょくめはなになに』って俺に向かってタイトルを列挙し出したの。
いやー、血は争えないわーって思ったね」
「血は争えない」とトシオ小父さんが言っているのは、私の母のことである。
私の母は旧帝大を出た秀才で、小父さんはコンプレックスがあるようだった。
「『あの』お母様の子だなー、さすがだなー、と思ったよね」
とトシオ小父さんは言っていたが、まあ、私も似たようなコンプレックスを母に対して抱くようになるのは、また後日の話である。